第8章:父の想い(小説「悔恨」)
緩やかに靡くカーテンが、夕日に照らされ幻想的な影を映し出していた。
重苦しい沈黙の後、二人の男は共におじぎをして別れた。
一人は立ち上がり深々と、もう一人は背もたれにもたれ掛かり、辛うじて首を屈めた。
部屋を後にした光太郎は、井川の父親とのやり取りを繰り返し思い返した。
「私が全ていけないんです。弘一朗をあんな風にしてしまった。」
「それは私も一緒です。途中から純二の異変に気が付いてはいた。でもあいつと向き合う時間を作ってやれなかった。」
「それは違います。おそらくは弘一朗が純二君を煽ったというか、変えて行ったんだと思います。」
「会社をやって行くというのは簡単なことじゃぁない。いろいろなことがありますよ。それはもう眠れなくなるほど辛いことや、逆に通常では味わえないような達成感だったり。
いずれにしても、一人では成しえない。一緒に、一緒にやってきたんですよ、彼らは。どちらかが悪いということはありません。」
「それはそうかも知れません。だが、原因があって結果があるとすれば、うちの息子です。
息子のお金で生活している私が言えたことではありませんが、純二君を巻き込んでしまって申し訳ありませんという気持ちが拭えません。」
「いつかは子供たちの面倒になる。それが遅いか早いかだけの話です。気にすることではありませんよ。
確かに、息子が会社を興したいと言ってきたときは驚いた。
高校を卒業して受験に失敗し、一浪してもどこにも受からず、結局専門学校です。
やりたいことも無く専門学校に行き、そこでなにを学んだのか。おそらくは何も学んでいない。その後すぐに就職するわけでもなくダラダラと・・・。
妻が甘やかしていたのも知っていました。仕送りも言われるがまま、してあげていたのでしょう。
その後就職して、一安心する間もなく、退社です。
そんな息子が起業するという。
自分の息子です。よくわかっているつもりでした。そのような能力は無いという事は。
でも、初めてだったんですよね。
自分のやりたいことを必死に訴えてきました。
力を貸してくれる仲間もいると、喜々として語っていました。
正直うれしかった。
私もその時分は、まだまだ元気でしてね。
一つだけ、誤算があったとすれば、想像していたよりも事業規模が大きかったという事位です。
感謝しているんです。私は。
いえ、私だけじゃない。純二もそして家内も。
本当です。あんな駄目息子に付き合ってくれた友達が居ることに。
気になさらないで下さい。」
「そのお言葉を鵜呑みには出来ません。これから私に何が出来るでしょうか?どうすればあの子たちを守れるでしょうか?」
「わかりません。ただ、私はそんなに長くはないと思います。心残りだが仕方のないことです。
見守ってあげては頂けませんか?それだけで十分だと思います。」
「それだけですか?」
「彼らも、もう十分大人です。自分たちの考えで動いています。もしなにかあった時には、自ら責任を負いますよ。また、そうでなくては困る。」
「私達も、過去の悔恨から解放されることはないんですよ。」
1章:ひかり
2章:友情
3章:変化
4章:親子の関係
5章:勝負
6章:破滅
7章:悟の狙い
8章:父の想い
9章:純二の視点
10章:回想
最終章:闇の真実
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