第7章:悟の狙い(小説「悔恨」)
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入社から二年、谷中悟は株式会社ニュートンスクエア代表取締役に就任した。
やっと社長になれた。
入社時から社長の座を狙っていたわけではない。
先日の株式会社イーロンとの支社長面談の結果、原田弘一朗が代表取締役を辞任することになった。
株式会社イーロン田中室長との事前の話では、井川純二も代表取締役を辞任させると聞いていたが、そうはならなかった。
理由は教えては貰えなかった。
原田の会社が、軌道に乗らなかったことは想定していなかったが、それ以上に予想外だったのは、井川純二が自ら代表取締役を辞任したことだ。
おそらくは、テレビボードの件の責任を自らに仮せたのだろうが、俺にとってはプラスでしかない。
おそらく、原田弘一朗の会社はもう長くないだろう。
助けてあげたい気持ちはあるが、共倒れは避けなければいけない。
こっちにも守るべき従業員は大勢いるんだ。
自分が社長に相応しいかと言われれば、今はまだわからない。
しかし、考えてみると、井川純二は社長には向いていない。
優しすぎる。
原田弘一朗は間違いなく社長に向いていない。
危険すぎる。
自分に野心が無いか問われれば、ある。
ただその思いは、原田弘一朗のそれとは明らかに違う。
自分を、強く、賢く見られたいわけでは決してない。
事業を無限に拡大していきたいなんて考えはない。
彼は俺の話にもう耳を傾けない。
思えば弘一朗には差を付けられて苦い思いをしてきた。
そう思うこともあった。
でも、思い浮かぶのは別の記憶だった。
学生時代はほぼ毎日一緒にいた。
友達は沢山いたが、親友と呼べるのは弘一朗くらいだった。
だが、彼は変わった。
どこで、何が、彼を変えたのかわからない。
昔、二人で食べたラーメンの味を覚えているか。
博多特有の注文の仕方に戸惑っていた彼は。
初めて歩いた親不孝通りで、外人に話しかけられ固まっていた彼は。
警固公園で女の子に声をかけ、怖いお兄さんから、一緒に走って逃げた彼は。
一緒に行った屋台で、馴染めず一番端で苦笑いを浮かべていた彼は。
教えてあげたブランデーを、これなら飲めると真っ赤な顔で笑った彼は。
そして、“お前のお陰で博多が大好きになったよ”と笑顔で言ってくれた弘一朗は。
俺が、何とかしなければ。
終らせなければならないなら、終わらせないといけない。
もうたくさんだ。
弘一朗の父親も助けることは出来なかったかもしれない。
そして、井川純二が弘一朗の大切な友達ならば、助けてあげなければ。
原田弘一朗を守ることが俺には出来るだろうか。
1章:ひかり
2章:友情
3章:変化
4章:親子の関係
5章:勝負
6章:破滅
7章:悟の狙い
8章:父の想い
9章:純二の視点
10章:回想
最終章:闇の真実
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